【F1開幕】3強低落の主役交代でトヨタにチャンス到来
先月29日のオーストラリアGPで開幕した今年のF1は、今月5日のマレーシアGPを経て、今週末は早くも第3戦中国GPを迎える。
これまでの2戦の成績は、ホンダ売却の後を受けた闘将ロス・ブラウンが率いるブラウンGPメルセデスが圧倒的に強く、これに唯一トヨタが対抗、昨年までの主役であったマクラーレン、フェラーリ、BMWの3強は中位以下という様変わりの展開になっている。
[2戦を終えてのコンストラクターズポイント]
1. ブラウンGP 25
2. トヨタ 16.5
3. BMW 4
4. ルノー 4
5. ウィリアムズ 3.5
6. トロロッソ 3
7. レッドブル 1.5
8. マクラーレン 1
9. フェラーリ 0
10. フォースインディア 0
その最大の理由が09年から始まったレギュレーション(規定) の変更に合わせたマシン開発が遅れたことで、中でも象徴的なのが、車体の下を流れる空気を利用してダウンホースを得るディヒューザーという装置の解釈をめぐる問題。
新しいレギュレーションのマシンでは、空気の力で車を抑え込んでコーナーリングスピードを得るためのダウンホースを得るのが難しく、これにディフューザーを使えるかどうかが大きなカギになる。
開発に出遅れた3強にルノーを加えたチームらは、その腹いせにディヒューザーの利用でダウンホースを得ているブラウンGP、トヨタ、ウイリアムズの3チームを違法だとしてFIA(国際自動車連盟)の国際控訴裁判所に提訴したが、これはまったく笑止な行動。4月15日には、あっさり合法との判断が下されている。
この裁判の公聴会で、ウィリアムズCEOのアダム・パー氏が「このディフューザーが違法なら、フェラーリとルノーのタイトルも違法」と主張し、さらに「ブラウンGP、トヨタ、ウィリアムズの解釈が違法ならば、フェラーリがここ数年で獲った11のタイトルと、ルノーの4つのタイトルも違法とすべき」と訴えたという。
これはつまり、これまでフェラーリやルノーも同じ解釈してマシンをつくって勝ってきたのではないか言っているのである。今更、出遅れたからといって何を言っているのだ、というわけである。
主役が交代するというのはこういうことで、退場する側は醜く悪あがきを続けるし、登場するほうは颯爽と出てくる。
今年のブラウンGPとトヨタがまさにそれで、ブラウンのほうはあっさり開幕2連勝を決めてしまった。次はトヨタの番で、今週の開幕第3戦、中国GPは颯爽と主役を名乗る絶好の舞台である。
もっとも中国GPがだめでも、次のバーレーンGPからヨーロッパシリーズへと、トヨタ初優勝のチャンスは広がる一方である。
というのも、ブラウンGPは開発資金的にもこれ以上の大きな飛躍は期待できないが、トヨタにはまだまだ開発余力があり、いずれブラウンGPに追いつくとみられているからである。
旧3強らの“出遅れギャング”チームらも必死で新しいディフューザーを開発してくることになるだろうが、テストが制限されている今年は、これが実践で力になるまでには相当の時間が必要となる。トヨタには、初優勝に向けて最高のフォローの風が吹いている。日本人にとって、こんな楽しみなF1の開幕はない。
【F1ハンガリーGP戦力分析】フェラーリ失速のピンチ
今週末、8月2日~3日、F1第11戦、ハンガリーGPがブタペストのハンガロリンクで開催される。このGPは、3週間にわたる夏休み前、最後のレースとなる。
したがって、前後半の折り返しGPといった色合いが強い。そこで、折り返し地点での戦力分析──。
折り返し地点での、各チームの実力はどのようなものか。実は、前戦のドイツGPで見えてきたものがある。
それは、コンストラクターズ・ポイントに表われている各チームの勢力図というのが、必ずしも今年の実力を反映していないのではないかという疑いである。これまで勢力図は、フェラーリ(105ポイント)、BMW(89)、マクラーレン(86)の上位グループ。これに次ぐのがトヨタ(25)、レッドブル(24)、ルノー(23)、ウィリアムズ(16)の中位グループ、そしてホンダ(14)、トロロッソ(8)、フォースインディア(0)の下位グループに大別されていた。
しかし、この勢力図がここにきてかなり変わってきている。
簡単にいえば、本来の速さを維持しているのはマクラーレンだけで、その他は低迷、または失速の状態にある。マクラーレンが早くなっているのではなく、その他のチームが勢いを失っているのである。
躍進しているかに見えるルノーやホンダも、レース展開に恵まれたり、天候に恵まれたりしているだけで、本来の速さが伸びてきているわけではない。
そこでそうした状況を一覧にすると、以下のようになる。
・フェラーリ(明らかな失速)
・BMW(明らかな失速)
・マクラーレン(本来の速さ維持)
・トヨタ(ミスによる自滅)
・レッドブル(停滞)
・ルノー(フロックによる躍進)
・ウィリアムズ(停滞)
・ホンダ(フロックによる躍進)
・トロロッソ(早さ回復)
・フォースインディア(低迷)
この各チームの現状を踏まえ、新たな勢力図は以下のようになる。
[上位グループ]
・マクラーレン
・フェラーリ
[中位・上段グループ」
・BMW
・トヨタ
・レッドブル
[中位・中段グループ]
・ルノー
・ウィリアムズ
[中位・下段グループ]
・トロロッソ
・ホンダ
[下位グループ]
・フォースインディア
まず上位グループだが、3強の中から明らかにBMWが脱落している。フェラーリも失速しているが、マクラーレンに対しまだ1周0.25秒程度の差に収まっている。マクラーレンが特に速くなっているわけではないので、勝手にフェラーリとBMWが失速している感じである。
BMWはマクラーレンと0.45秒程度の差があり、これはトヨタとほぼ同水準にある。ただBMWが失速しているのは、予選に必要な一発の速さがないためで、レースペースに関してはまだBMWのほうが優位に立っている。
中位の上段グループは、BMWが入ってきたため、一段と熾烈な戦いになっている。一発の速さではトヨタだが、レースペースや戦略ではBMWのほうに一日の長がある。
トヨタはここ数戦、予選でのアドバンテージを生かした戦いをしていない。つまらないミスで自滅している。チーム全体のレベルアップを図っているといえばそれまでだが、実際のレースではタイヤ交換を協議している暇などないのだから、ドライバーに有無を言わせない絶対的な信頼できる司令官を必要とする時期にきている。
レッドブルは一時期、中位グループのトップとして上位グループの取りこぼしを拾いまくっていたが、いまはその地位をトヨタに奪われている。あわよくば表彰台を狙う位置から、8位入賞を狙う位置に停滞していて、今度はその位置を同族チームのトロロッソに脅かされている。
中位の中段グループ以下で注目されるのは、そのトロロッソで、このところ早さが目立っている。本番ではまだトヨタの速さまで行っていないが、本家を脅かすこの速さは、レッドブルがルノーなのに対し、トロロッソがフェラーリのエンジンを使っていて、その差が出てきているのではないかといわれている。
中嶋一貴のウィリアムズは一時の勢いを失っているが、これは開発の主力を来年のモデルの開発に向けていたためで、資金力のない独立チームとしてはいたしかたない。それにしては、中嶋もN・ロズベルグもよく健闘している。
ルノーはF・アロンソの力をもってしても表彰台はおろかトヨタにも届かないので、レース展開でのフロックを待つしかない。アロンソは、一発に力を入れるとレースペースがまるでだめという悲劇を繰り返している。ルノーのマシンは基本的な速さが足りない。
ホンダも似たようなもので、マシンに基本的な速さがないから、雨などのフロック頼みが続いている。それでもフェラーリから来たロス・ブラウン代表の力量は大変なもので、レース上のバクチを打つ決断力がある。“ブラウン・ホンダ”の幕開けは近いかもしれない。
最後に、今週のハンガリーGPは直線が短く、追い越しが難しいコーナーの多い低速コースである。したがって、予選での順位が重要な意味を持ってくる。
いま予選で一発の力が注目されているのは、マクラーレン、トヨタ、トロロッソといったところなので、この3チームから目を離せないレースになりそうである。
【F1トヨタ】雨のシルバーストーンが弱点を浮き彫に
雨中の戦いとなった7月6日のイギリスGPでトヨタは、J・トゥルーリが執念の走りを見せ7位入賞。これでトヨタはコンストラクターズポイントで、レッドブルを抜いて4位に躍進し、名実ともに中位グループのトップに立つこととなった。
これからも中位グループの熾烈な争いは続くだろうが、節目の折り返し地点でトップに立ったことは今年のトヨタの躍進を裏付けるものといってよい。
[コンストラクターズランキング] 08・7・8
1位 フェラーリ 96
2位 BMW 82
3位 マクラーレン 72
4位 トヨタ 25
5位 レッドブル 24
6位 ウィリアムズ 16
7位 ルノー 15
8位 ホンダ 14
9位 トロロッソ 7
10位 フォースインディア 0
このランキングをみると、獅子奮迅の活躍が話題になっているF・アロンソのルノーが、その活躍にもかかわらず依然としてトヨタに10ポイントの差をつけられている。このことからのも、今年のトヨタがいかに堅実な走りをしているかをうかがい知ることができる。
しかし同時に、そこからはトヨタが直面する大きな壁も見えてくる。とくにシルバーストーンで行われた雨のイギリスGPでは、その問題が顕著に現れた。
それは強さと同居する弱点というか、強くなったが故に要求される弱点ともいうべきものである。
イギリスGPでのトヨタの予選、それに予選前のフリー走行の成績は散々なものであった。特に予選前日の4日に行われた初日のフリー走行2回目は、終了数分前まで20台中19位と20位という体(てい)たらく。
T・グロックは縁石に車体の底をぶつけてモノコックにひびが入り、トゥルーリは新しく投入したリア・ウイングを支えるピラーの取り付け(マウント部分)に支障をきたして、走行中にウイングを脱落。リアのダウンフォースを失ったマシンはスピンをしてタイヤバリアにクラッシュしてしまった。両方ともよくあるアクシデントとはいえ、翌日の予選に影を落とすものであった。
そして予選。案の定というべきか走りこみ不足のトヨタは、Q1をどうにかクリアしたもののQ2はグロックが12位、トゥルーリが14位と、ともにQ3進出はならなかった。
しかし、このままで終わらないのが最近のトヨタの強さである。未調整ながら、決勝ではトヨタらしい粘り強い走りを見せた。
レースはウエット。ほとんどんマシンはスタンダード・ウエット(浅みぞ)・タイヤでスタートを切った。雨は止んでいたが、路面は完全にウエットで水しぶきの上がる状態。天気予報もレース中の降雨を予測していて、気象に合わせたタイヤ戦略が勝敗に大きく影響するのは言わずもがな。勝負の行方は、作戦司令室であるピットウォールの戦略次第ということになった。
ところが、この重要時にトヨタのピットウォールは何も決断しなかった、かに見える。7位を奪取し、トヨタに貴重な2ポイントをもたらしたトゥルーリのレース後のコメントである(ニュースリリースより)。
「今日は良いレースだった。2ポイント獲得できたのは良かったけれど、もっと上を狙いたかった。レースを通して、私はとても力強い走行ができていて、雨がひどくなった頃には3位まで順位を上げていた」
「その時点で、コースは本当にひどい状態で、至るところでアクアプレーニングが発生し、1周あたり15秒も失っていた。 我々は、エクストリーム・ウェット(深みぞ)・タイヤに切り替える賭けに出るべきだった。しかし残念ながら、その決定を下そうとした時点で、もうこれ以上雨が降らないのが分かったんだ」
それでトヨタは、2台ともエクストリーム・ウェット・タイヤに交換することはなかった。誰が、交換しないと決断したのだろう。何もしないという決断である。もし、誰かが交換して成功したら、何もしないという決断は、単なる無策、つまり戦略がなかったということになる。
「それはただ、難しいコースコンディションにおける判断の難しさの問題だったのだけれど、後から考えると、我々はタイヤを替えるべきだったね。表彰台を獲得できるかもしれないぐらい、とても力強い走行が出来ていたから、残念だった」
このトゥルーリのコメントには無念さがにじみ出ている。どうしてうちのチームのピットウォールは無策だったのだと叫んでいる。
ニュースリリースを読むと山科忠チーム代表は、「天候は回復すると感じていたので、我々はエクストリーム・ウェット・タイヤに切り替えるよりもスタンダード・ウェット・タイヤを履き続けることを選択した。その選択は最終的にはうまく行った」といっている。
ドライバーが表彰台を狙えたかもしれないといっているのに、「その選択は最終的にうまくいった」という山科代表の評価は、あまりに情けないのではないか。
現に、積極的にエクストリーム・ウェット・タイヤに切り替える戦略をとったウィリアムズとホンダは大成功を収めた。ウィリアムズは最後にトゥルーリに抜かれたものの8位に入賞し、ホンダは3位表彰台となった。
雨は止んでも、あれだけ水量が多ければいかに乾きが早いシルバーストーンでも、10周や15周、時間にして2~30分はエクストリーム・ウェット・タイヤの効果が持続するはずである。7位だったホンダは1周、3秒から4秒も早いラップで2位まで駆け上がっている。そして、ふたたびスタンダード・ウェット・タイヤに戻すためにピットインをしたが、そのタイムロスにもかかわらず3位を獲得した。
トヨタのピットウォールは、その計算と決断ができなかったのだろうか。トゥルーリの無念さがわかろうというものである。
山梨代表が言うように、トゥルーリの選択はうまくいったと言いはるのなら、せめてグロックだけは、エクストリーム・ウェット・タイヤに交換するという戦略が取れたのではないか。ウィリアムズが、中嶋一貴のタイヤだけを交換したようにである。
情報によれば、グロックのフロントウィングは最新のもので、このパッケージはストレートのスピードは伸びるもののその分ダウンフォースが低くなるという。
確かにグロックの最高速は1位とテレビ画面に出ていたし、同時にスピンの回数もフェラーリのF・マッサと並んでトップクラスだった。彼のダウンフォースをカバーするためにも、より雨中でのグリップ力が増すエクストリーム・ウェット・タイヤへの切り替えは、通常の戦略としても十分に考えらたはずである。
しかし、トヨタのピットウォールは何もしなかった。無策だった。これといった戦略がとれなかったのである。
もちろんこのことは問題である。だが、それ以上に問題なのは、山梨代表のコメントを待つまでもなく、チーム首脳にそれが問題だという意識がないことである。戦略がないことに危機感がないのである。
もう一人の日本人幹部、新居章年技術コーディネーション担当ディレクターのプレスリリースでのコメント。
「我慢強くレースをした二人のドライバーに感謝したい。 しかし予選でトップ10に入れなかったことは大きな反省材料であり、次のドイツに向けてはしっかり車のアップデートも図りたい」
技術コーディネーション担当ディレクターという立場では、戦略より技術が最大問題という認識もやむを得ないかとも思うが、それではトヨタの中で誰が戦略の弱点に関心を持ち、責任をとるのか。
トヨタのマシンがトップレベル近づき、ある強さに到達すれば次に要求されるのは戦略面の強化である。ところがトヨタの首脳は、そのことにきわめて危機意識が希薄なことを今回改めて露呈してしまった。マシンの性能とピットウォールの戦略頭脳は、トップチームになるために欠かせない二大要素、クルマの両輪のようなものである。
ものづくりで世界一になったトヨタの経験からいえば、戦略は技術の後についてくるももだろうが、レースではそうはいかない。レースは、それに勝つための独自の戦略が必要なのである。
いずれ戦略はついてくると思っているその哲学、その問題意識のなさが、いまF1トヨタが抱えている最大の弱点といってもいい。シルバーストーンの雨中のGPは、そのことを鮮明に浮き上がらせたレースであった。


