魔性の探究:32 六本木の深窓
第五章 魔性の夏
Ⅱ.六本木の深窓
結局、綾が援助交際の相手、資産家の西郷啓との最初の夜について語り出したのは、二時間も修二の魔性をむさぼった後だった。
「どうしても聞きたいの? 西郷さんとのこと…。それア、聞きたいわよね」
綾のからだの火照りはまだ消えていない。その熱い身体を修二に押し続けたまま、綾は彼の腕の中からその顔を覗き込んだ。
「うん、六本木の料亭で突然現れた男が君を連れて姿を消すんだから…、それがどうなったか知りたいよ」
「それが、思いがけない展開になったのよ」
「ええっ、思いがけない展開?」
思わず綾と絡めた太腿に力が入る。修二の魔性が淫らな妄想と好奇心にうめいた。
西郷は援助交際の相手として紹介されたのだから、綾が西郷に抱かれるのは当然の成り行きである。それは、その紹介を黙認した修二とて、とうぜん覚悟はできている。
しかし、そうと分かっていても綾が他の男の抱かれると思うと、嫉妬に似た感情が生まれてくる。これは男の独占欲である。
女性の弱さの一つに、愛はピュア(純粋)であってほしいと願う感情がある。
たとえば、愛し合っているなら相手のすべてを知りたいのは当然だと考えるのである。ここまではいいのだが、女性は、だから隠しごとや嘘はいけないと思ってしまう。
人間の感情、特に愛は嘘も方便である。方便とは、正しい目的に導くための手立てのこと。人間の関係にはときには嘘も必要だということで、特に愛をはぐくむには、隠しごとや嘘も時には必要なのである。
ところが女性は、真剣に愛しているイマ彼からマエ彼との関係を聞かれると、愛のピュアを守るためにマエ彼とのすべてを話したほうがいいと思ってしまうのである。しかしこれは、女性のとんだかん違いである。
マエ彼との関係を聞かされて何とも思わないほど、男は単純ではない。話を聞いた瞬間から、その女性に対する愛は純粋ではなくなる。
自分と出会う以前の出来事であっても、男は女性の過去を許せないのである。女性はどんなに過去の話を聞きたがっても、決して男性が嫌がるであろう真実を話してはならない。
ついでながら、参考までに付け加えておくと、現状への適応性に優れている女性は、許すと決めたら男の過去になどこだわらないという性分を持っている。過去と関係なく、目の前の男性が自分を裏切らない限り、女性はピュアな愛をはぐくむことができるのである。これは女性の美徳でもあり、宿命でもある。女性はこの美徳があるから、嫁いだ先の未知の社会や環境にも順応できるのである。
この男と女の大きな違いを、もちろん綾は知らない。知らないから、愛のある修二には何を話しても許してくれると思っている。
あまり穏やかでない修二の内心も知らず、綾は、あの夜の西郷との出会いを話しだした。
料亭「島村」のゲストルームを出た西郷と綾は、マダム・リリーの案内でそのまま廊下づたいに料亭の本館のほうに歩いて行った。そして襖(ふすま)に仕切られたいくつかの部屋の前を通り過ぎ、リリーは、とある部屋に二人を案内した。
その部屋は旅館の和室のような造りになっていて、履物を脱いですぐの部屋が三畳間ほどの大きさ。着物を脱いで掛けられるような几帳と、鏡台などがしつらえてある。そして、その襖の奥の四畳半が俗にいう陰(かげ)の間で、枕を二つ並べた蒲団が敷いてある。
先に部屋に上がった西郷が、綾がリリーとあいさつを交わし、入口の襖を締めるのを確かめるとずかずかと三畳間を通り過ぎ、さっと陰の間の襖を開いた。目に艶めかしい二つ枕の蒲団が飛び込んできた。
とっさに、綾は時代劇の世界にいるような錯覚に陥った。
「あら、すごい!」
綾は小さな歓声を上げた。もちろん出会茶屋のようなシチュエーションは、綾にとって初めての経験である。どこかで、真っ白い蒲団の上で嬌態(きょうたい)を曝す自分の姿態が見えるようであった。
「これで、着物の帯をするすると解かせるのが、男の本望というわけです。ま、こちらにきてお近づきのしるしに一杯どうですか」
西郷は枕元の空いた場所に、どっかりと腰をおろした。そこには手回し良く、酒と肴が用意されている。
「私も映画のような、帯をするすると回して解かされるシーンが思い浮かびましたわ」
綾は正直である。上気した顔で、西郷の前に座った。
部屋に案内してきたリリーが、小さな声で、「嫌ならお断りしてもいいのよ。西郷さんはすべてのみ込んでいるから大丈夫、決して無理強いするようなことはないから」と綾に念を押したとき、「分かりました。ありがとうございます」と答えながら綾は、自分の気持ちがもう固まっていることを自覚していた。
援助交際ということを別にして、西郷は綾にとって嫌いなタイプではなかった。落ち着いた大人の雰囲気があったし、資産家の余裕なのか口調や物腰が紳士的なのも好感が持てた。
そして何より、これから関係を持つという相手が、生理的な嫌悪感を感じるようでは話にならない。その点、西郷にはこれまで誰にも感じたことのない色気のようなものがあった。
──早く抱かれてみたい。
西郷の援助を受けようと心の決めた瞬間、綾の魔性は早くも疼いていた。
「綾さんは、私の援助を受けてくださるのですか」
綾の盃に酌をしながら、西郷が訊いた。
「はい、お世話をしてくださるのなら、喜んでお願いしたいと思います」
「あなたはリリーさんがおっしゃるように素晴しい方だ。本当は私などにはもったいない人です」
「そんな…。もうおばあさんですわ、私なんか」
綾は謙遜した。
「お床入りする前に、こういうことははっきりさせていきたいのです」
西郷は居ずまいを正した。
「はい」
「私のために、一泊できる日を最低一日、夜更けまで遊べる日を一日とってくれたら、月に30万円を支払いします」
「わずか月に二日で30万円ですか?」
思わず、綾が聞き返した。
「不満でしょうか、だったら…」
「お待ち下さい。不満ということではありません。ただ、私にはその金額は高すぎます」
「何をおっしゃるのですか。あなたのような方を1日でも自由にできて、本当なら50万円でも安いくらいなのです。私との付き合いが続くようでしたら、いずれ、50万円に引き上げますからとりあえず30万円からスタートしてください」
綾は、西郷から援助の条件を聞いて呆然としていた。どう考えても、月に二日で30万円もの値打ちが自分にあるはずがなかった。
「西郷さんは、私を買い被っていらっしゃるのですわ。リリーさんがどう話したのか存じませんけれど、何か誤解していらっしゃいます」
「誤解なんてしていませんよ。あなたは、私にとってそれだけの値打ちがあるのです」
そこまで言われると綾には返す言葉が見つからなかった。
「分かりました、それでは西郷さんのお気がすむように…」
綾は、そこまで言うのがやっとであった。ところが驚くのはまだ早かった。西郷の口から意外な言葉が飛び出したのである。
魔性の探究;31 高輪台の再会
第五章 魔性の夏
Ⅰ.高輪台の再会
火曜日の午後四時、会社で仕事中の森口修二のところに、久しぶりに恋人の綾から電話がかかってきた。
「わたしの話、聞きたいでしょう?」
綾はいきなり、こう切り出した。
「うん、もちろん。それに、おれも綾に報告することが…」
修二が思いっきり素直になれるのは、綾が恋人というだけでなく、幼友達でしかも小、中学校の同窓生だからだ。他人には言えないことも、彼女には話せる。
「じゃ、今夜どう?」
間髪をいれずに綾が尋ねる。
「いいよ、夕食でも食べる?」
「何を他人行儀なことを言っているの。綾は、久しぶりに思いっきり修二に抱かれたいのよ。修二だって千里のことがあるから、気が咎(とが)めいているけど、本当は綾のことが心配なんでしょう。もう、抱けないのではないかって」
「そ、そんな…」
男心の核心をズバリ衝(つ)いてくる遠慮のない綾に、修二は思わず血の通い合うような温かさを感じた。それは千里には感じない、身内への愛しさのようなものであった。
わずか十日前、修二と綾が六本木の料亭「島村」にマダム・リリーを訪ねたとき、二人にはそれぞれ予想外の展開が待ち受けていた。
修二は千里の愛を受け入れ、箱根のリゾートマンションへ。そして、綾はとつぜん現れた資産家の西郷啓とともにあっという間に、修二の目の前から姿を消してしまった。その時リリーが、「実は、パトロンにどうかと思って紹介したのよ」と言って西郷を一同に紹介したのだから、一緒に姿を消したということは、綾が西郷をパトロンとして受け入れたことになる。
──あれから、綾はどうなったのか。
修二は、ずっと気にかけていた。しかし、電話をかけてその後の成り行きを聞くのははばかられた。
綾が、西郷をパトロンにすることに異議があるわけではない。大金持ちと紹介されたわりには、西郷はほどほどに品が良く、頭も低かった。
それより何より、リリーが見透かしているように、綾にはパトロンがいたほうがいいと修二は思っていた。
家業の雑貨輸入を扱う綾の亭主は、それなりの生活力があるとはいっても、愛人がいる二重生活者だから、それほど潤沢に綾に生活費を渡しているようには見えない。その中から、綾が魔性を楽しむ資金をねん出するのは、決して楽ではないはずであった。綾には自由にできるお金が必要だと、修二は以前から思っていたのである。
修二が綾に電話をかけられなかったのは、むしろ自分のほうにその理由があった。千里を新しい恋人にしたことに、修二は後ろめたさを感じていた。
たんに千里と関係をもったというだけなら、それほどの罪悪感はない。しかし、修二は綾とは別の愛しさを千里に感じていた。箱根の夜を過ごしてから、修二の心の中で千里の存在は、恋人といえるほどの大きな成長していた。
綾は子供のころからの恋人であり、そして千里もまた恋人だった。
どちらが本当の恋人かという問題ではなく、千里を恋人にしたことで、綾の自尊心が少しでも傷つくのではないかということを修二は恐れ、それが綾に対する後ろめたさになっていた。そしてそれは、修二の優しさでもあった。
そんな修二の気持ちを知ってか知らずか、躊躇する修二の心を見透かしたように、綾が電話をかけて来てくれたのである。
修二が千里を恋人にしてしまったように、あるいは綾も、パトロンを越えて西郷と恋人の関係になっているのかもしれなかった。それはそれでいいのだが、やはり修二は、綾と西郷があの夜どうなったのかを知りたかった。
結局、修二と綾は高輪台の修二のマンションで落ち合うことになった。
本当はゆっくり食事をとりながら、どこかシティホテルに泊まるのも悪くないと思っていたが、あいにく修二の会社での仕事が午後8時すぎまで入っている。二人は別々に夕食をとるしかなかった。
修二が高輪台のマンションに戻ってきたのが、9時少し前。待つほどもなく、綾が訪ねてきた。
姿を見せるなり、綾はすぐに修二をベットに誘った。
「いきなりなんだから…。帰ったばかりでまだ、シャワーも浴びていないよ、僕」
「そんなのはいいの。僕は、私が今日どんなに待ちわびていたか、ちっとも分かっていないんだから」
綾は素早く修二を裸にすると、自分のインナーも脱ぎ捨て、硬くなりかけた修二の魔性をその口に飲み込んだ。
「うっ、どこで覚えたんだい、そのテク? あ、そうか、もう西郷じじいから教わったんだ」
快感を押し殺して、修二が綾をいたぶる。
「そうよ、テクニシャンの金持ちじじいから毎日腰が立たなくなるほど仕込まれているのよ。今はもう、じじいの魔性がなかったら生きていられないほど狂っているの」
修二の魔性を口で爆発寸前まで攻め抜いて、さっと身体を入れ替えた綾が、修二を迎える態勢になった。
「そんなに、じじいの魔性がいいのか」
綾の挑発に、修二は一気に激情して綾の中に突入した。
「あ、いい。もっと深く、強く。もっともっと」
「じじいがあまりうまいので、お金はいらないなんて言っていないだろうね」
「あ、あ、言っていない。私はお金をもらって楽しんでいる…」
綾が喘ぎはじめた。
「援交だな。なんでもやらせる人妻の援助交際だ」
「そう、なんでもやらせる…。人妻のアルバイト援交だからアルエン」
貪欲に、綾が腰を突き上げ白い足をからませてくる。
「何がアルエンだ。なんでもやらせるって、どんなことをやらせるんだ?」
修二が乱暴に言った。
「怒ってるの? それとも妬いているの? あ、いい。止めないで、もっと強く」
「ふん、妬くわけがないだろう。それより、どんなことをやらせるんだ」
「そんなこと言えないわ。楽しくて気持ちいいことよ」
「俺より?」
「あ、止めないで、お願い」
修二が腰の動きを止めた。
「正直に言ってごらん」
「聞いてどうするの?」
「どうもしないさ」
「修二もお金をくれるの?」
修二の腰が再び動き出した。
「俺は、アルエンなどしないぞ」
「あたりまえでしょう。私は修二の恋人なんでしょう、永遠の」
「そうさ」
「きょうは、それを確かめに来たのよ。しっかり捕まえておかないと、どっかへ飛んでいってしまいそううよ、私」
「飛ばさない。綾はおれの女だ」
「なら、来て」
何かを求めているかのような、綾の狂ったように激しい魔性であった。
魔性の探究;30 西荻窪のコーポ
第四章 魔性戦争
Ⅵ.西荻窪のコーポ
修二、千里、リリーの三人を乗せて、リリーのお抱えドライバー、松原が運転する黒塗りのクラウンはJR西荻窪駅前の小さな広場を通り抜け、いつの間にか住宅街の一歩通行を縫うように走り続けている。目的地が近いようであった。
「誰かに見られたいという逆視姦の魔性の女性は、魔性でもなんでもない単なる好きものの男性の犠牲になっているということなのですね」
修二は、リリーを気づかった。
「ええ、でも男性が悪いと一方的に思っているわけではないのです。こういうことは、男も女もお互い様ですからね。ただ、女性が魔性を楽しめる機会が増えた分だけ、危険が増したということなのです。あのこたちに私がもっと注意しておくべきでしたわ」
「それは、リリーさんの責任ではありませんよ。彼女たちは子供ではないのですから、そうでしょう? 千里さん」
リリーの話を受けて、修二は千里に同意を求めた。
「そうですよ、リリーさん。魔性が認められるというのは、性の解放のようなものですから、広く社会に認められるようになるまでは、多少犠牲者が出るのも避けられませんわ。特に、見られたいという魔性は、見てくれる相手が必要ですから、危険だということは彼女たちもある程度覚悟はしていたと思うのです」
ほどなくクルマは、目的のマンションの前に着いた。
「ここだと思うのですが…。あ、そうです、さくらコーポと出ていますから」
先にクルマを降りたドライバーの松原が、声を高くして一同を招いた。
さくらコーポは、修二が予想していた建物よりはるかに小ぎれいな集合住宅であった。ワンルームの2階建てが2棟並ぶその一角は、空き地スペースに中ぶりの桜の木が枝を伸ばし、その下に6、7台分の駐車場があって、余裕を感じさせる佇(たたず)まいである。
「いいコーポですね…」
修二が、誰に言うのでもなくささやいた。
「ほんと、どなたか管理人の方はいらっしゃるのかしら」
リリーがうなずいた。
「双葉」と、ドアに表札のかかった2階の部屋はすぐに見つかった。N203号室。Nは北棟を指すらしい。隣の棟はSで統一されている。
N203号室に、誰かがいる気配はまったくなかった。入口のブザーを押しても、何の反応もない。
「ここに管理人さんはいるのでしょうか?」
1階で、買い物から帰ってきた風の中年女性にたずねると、
「常駐の方はいませんよ。不動産屋さんが管理しているんです」
と、その女性は不動産会社の名前を口にした。
その不動産会社は、テレビや新聞などで土地の有効活用を盛んに宣伝している、それなりに知られた会社であった。おそらくこのコーポも、その会社が地主に土地有効活用を働きかけて建てたものに違いなかった。
不動産管理がいわばシステム化しているこうした土地有効活用の集合住宅では、下請けの管理会社が機械的に清掃やメンテナンスをしているだけで、特に居住者と接点があるという管理は少なかった。
「手掛かりはありませんね」
「ええ、でも来てよかったですわ」
修二の落胆した声に、リリーが明るく答えた。
何の手掛かりがないとしても、そのことをわざわざ住まいまで訪ねて来て確かめたことで、リリーのふさいだ気持ちがいくらかでも軽くなっているようであった。
「そうですね。ここが駄目でも、今度は私と修二さんでお友達の線から探してみますから…。きっと、何か手掛かりが見つかりますわ」
千里がそう言いながら、リリーを抱きかかえるように彼女に寄り添ってクルマに戻った。
そして、ほぼ15分後には、一同を乗せたクラウンは再び高井戸の入り口から首都高速に乗り入れていた。
往(ゆ)きと違って、帰りの車内は重い空気が一掃されていた。それは、リリーの話し声が明るくなったことにも表れている。
「修二さんは、涼子さんらの見られる魔性というか、逆視姦の魔性がどんなものかお知りになりたいのでしょう」
リリーがからかい気味に言った。
「ええ、大いに知りたいですね、好奇心魔性の僕としては…」
修二の本心であった。
「素人のお嬢さんが人前で肌をさらすようなこともなかった江戸時代には、お口だけの愛撫とはいえ、全裸を横たえるというのはそれだけですごく羞恥心を刺激されたと思うのです。今と違って、裸を見られるだけで恥ずかしくって、きっとすごく興奮したことでしょうね。それが、鶯の谷渡りが実際に体を合わせることもないのに、堂々と体位48手の一つになっている理由というか、正体だと思います」
リリーがゆっくりと話し始めた。
「ところが、今日では肌を見せるくらいでは、殿方も女性も大して性的な刺激を受けません。ヌード写真など、いくらでもありますからね。結局、魔性というのは時代を反映しているわけで、女性が見られていると思って刺激になる魔性は、はっきりとオナニーの現場を見られているとか、3Pというか、3人プレーのように誰かが自分の恥ずかしい行為を見ていると自覚したときなのです」
「ということは同じ3Pでも、男性が二人か、女性が二人かではまったく違うということですね」
修二は質問をしながら、つばを飲み込んだ。
「そうです、そのとおりです…」
リリーの説明は明快であった。それによれば、3Pでも既に女性と男性の間には誤解があるのだという。
女性の魔性にとって最高なのは男性が二人の場合で、このケースでは主役はいつも女性になる。愛撫されていようが、いたぶられていようが、犯されていようが、いつも女性は主役として見られている。見られるから興奮し、魔性が満たされる。
ところが、女性が二人の3Pの場合は、主役はいつも男性になる。女性は脇役でしかない。
男性に犯されるのをもう一人の女性に見られるというシチュエーション(状況)もあるが、この場合は、見られる興奮より、嫉妬心とライバル(敵がい)心が優先することになり、これはこれで別の魔性になるという。
視姦、逆視姦でもっとも誤解が多いのは、男性が、女性は性行為や性器そのものを見ることで刺激されると思っていることである。これは男性が、自分がそうだから女性もそうだろうと思い込んでいるだけで、男性の性的幼稚さの証明になる。
はっきりいって、女性は他人の性行為や性器そのものを見てもあまり興奮しない。露出狂の痴漢が男性自身を振りかざして迫ってきても、これに触発されて興奮する女性はまずいない。嫌悪を感じるだけである。女性器の写真を見て興奮する男性と、そこが大きな違いである。
性行為も同じことで、行為そのものを見ても女性はいやらしいと思うだけである。ところが、直視しないで、行為のみだらな声を聞いた女性はそれだけで触発されてしまう。これはこれで、妄想という別の魔性なのだが、見て刺激される男性とイマジネーション(想像力)で刺激される女性との間には大きな差がある…。
「酒池肉林の乱交パーティーも、女性を喜ばせる演出ができる殿方は少ないのですよ。性行為を見て喜ぶのではなくて、女性が見られて主役になるという演出をしなくてはならないのですが、そういうことができる粋な殿方はほとんどいなくなりましたね」
リリーの話に、修二も耳が痛かった。
「男性は、いつの時代も野暮天ばかりですね」
修二の感想に、車内は大きな笑いに包まれた。


